3.助けてあげたかった


神戸でえらい空襲に遭ってなあ。
そらもう、ひどかった。
防空壕にも入ったけど、あんなもん役に立ちますかいな。
じきに火がついて外に出たら、あっちこっち火の海や。
それみんなで逃げよったときに、4才くらいの女の子が
「おかあさん!」
と泣いてたんですわ。
見たら、母親やろうな、モンペはいた若い女の人が、抱っこひもで赤ちゃんをこう胸にくくりつけたまま倒れてた。
顔を撃たれてなあ・・・もうな、顔があらへんねんわ。
赤ちゃんもな、死んでたんかもな。
せやけど4つくらいの女の子が、母親の手をにぎってな。
「おかあさん、おかあさん!」
て必死で呼んでるねん。
「おかあさん、おかあさん!」
て。
助けてあげたかった。
ほんまに助けてあげたかった。
でももう周りは火の海や。
その女の人だけと違う、あっちもこっちも死体だらけや。
やけどした人やら倒れとる人やら。
うちかて命かかっとる。
みんな見て見ぬふりで通り過ぎた。
誰ひとり、女の子に声をかけてやらへんかった。

逃げのびてからもそれが気になってたんやろなあ。
誰だったか男のひとが、
「子供一人だけ生き延びても苦労するだけや。あのまま親と逝かせてやったほうがええんや」
って言うたんよ。
うつむいて、みんなにそう言い聞かせてた。
それしかしょうがなかった。

ほんでもなあ。
忘れられへんわ。
七十何年経った今でもな。
あの子の「おかあさん」いう声が耳に残っとる。
まだ小さい、小さい女の子やったんよ。

(たかはたゆきこ)

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